なぜシーラカンスは生きる化石と呼ばれるの?深海で姿を変えずに生きるヒミツ
深海のタイムカプセル?「生きる化石」シーラカンス
深海には、地上や浅い海にはいない、実にふしぎで多様な生きものたちが暮らしています。その中でも特に私たちの好奇心をくすぐる存在が、シーラカンスです。
シーラカンスは「生きる化石」と呼ばれることがあります。なぜ「生きる化石」なのでしょうか?そして、彼らは過酷な深海の環境にどのように適応して、大昔から姿を変えずに生き続けているのでしょうか?
この記事では、シーラカンスの驚きの生態と、深海で生き残るための体のつくりに隠されたヒミツをやさしく解説します。
化石とそっくり!なぜ「生きる化石」と呼ばれるの?
「生きる化石」とは、大昔に生きていた生物の化石と、今の時代に生きている生物の姿が、ほとんど変わらない場合にそう呼ばれる言葉です。
シーラカンスの仲間は、今からおよそ4億年前のデボン紀という大昔に地球上に現れました。恐竜よりもはるか昔の時代です。そして、魚類の進化の初期段階に現れたこの仲間は、やがて多くの種類に枝分かれしたり、姿を変えたりしながら進化していきました。
しかし、今からおよそ6600万年前、恐竜たちが絶滅した時代に、シーラカンスの仲間もほとんどが絶滅してしまったと考えられていました。ところが1938年、南アフリカ沖の海で、生きたシーラカンスが発見されたのです!
この生きたシーラカンスの姿は、なんと大昔の地層から見つかるシーラカンスの化石と、驚くほどよく似ていたのです。この大発見によって、シーラカンスは「生きる化石」と呼ばれるようになりました。
まるで、大昔から姿を変えずにそのままタイムスリップしてきたかのようです。なぜ、シーラカンスはこれほど長い間、姿を変えずにいられたのでしょうか?その理由は、彼らが暮らす深海の環境と、彼らの体のつくりにあると考えられています。
深海で姿を変えずに生きるための体のつくり
シーラカンスが暮らすのは、水深150メートルよりも深い場所です。光がほとんど届かず、水圧が高く、水温も低い、生きものにとっては厳しい環境です。しかし、このような環境は、大昔からあまり大きく変化していないと考えられています。
シーラカンスは、この安定した深海の環境に適応することで、姿を大きく変える必要がなかったのかもしれません。では、彼らの体はどのように深海での生活に適応しているのでしょうか。
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フワフワ浮ける!油分の多い浮き袋 多くの魚は「浮き袋」を使って体の浮力を調整します。シーラカンスも浮き袋を持っていますが、これは魚類が肺を持つ進化の過程で変化したものと考えられています。さらに、シーラカンスの浮き袋の中には、空気ではなくたくさんの油が入っています。油は水よりも軽いので、この油のおかげで、シーラカンスは深い水の中でも、少ないエネルギーで体を浮かせて姿勢を保つことができるのです。これは、餌が少ない深海でエネルギーを節約するためにとても役立ちます。
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まるで手足?特徴的なヒレ シーラカンスの胸ビレや腹ビレなどは、まるで陸上動物の手足のように見えるユニークな形をしています。これらのヒレは、体の内側に骨格があり、それを筋肉が動かします。この構造のおかげで、シーラカンスは海底近くで体を支えたり、ゆっくりと体を揺らしたりしながら、まるで海底を歩くように移動することができます。急いで泳ぐのではなく、じっとしていて獲物が近づくのを待つ、待ち伏せ型の生活に適しています。
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硬くて大きなウロコと丈夫な体 シーラカンスの体は、鎧のような硬くて大きなウロコで覆われています。このウロコと丈夫な体は、深い海の高い水圧から体を守るのにも役立っていると考えられています。また、他の深海生物からの攻撃から身を守る役割もあるかもしれません。
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暗闇で獲物を探す?発達した感覚器官 シーラカンスは頭部に「ロストラル器官」と呼ばれる特殊な感覚器官を持っています。この器官は、水の中のわずかな電気信号を感じ取ることができると考えられており、真っ暗な深海で獲物を見つけ出すのに役立っていると考えられています。目も光の少ない深海に適応したつくりになっています。
ゆっくり生きる、深海の省エネ生活
シーラカンスは、活発に泳ぎ回るよりも、海底近くでゆっくりと過ごすことが多いようです。これは、餌の少ない深海でエネルギーを無駄にしないための省エネ戦略と考えられます。
餌となるのは他の深海魚やイカなどですが、彼らは積極的に追いかけるのではなく、発達した感覚器官で獲物を見つけ、大きな口で一気に捕らえる待ち伏せ型の漁を行います。
また、シーラカンスは卵を体内で孵化させて赤ちゃんを産む「卵胎生」という方法で繁殖します。赤ちゃんは母体内で十分成長してから生まれるため、深海の厳しい環境でも生き残りやすくなっています。しかし、成長が非常に遅く、繁殖できるまでに長い時間がかかると考えられています。ゆっくりと時間をかけて命をつなぐことも、深海での生存に適応した戦略なのかもしれません。
シーラカンスから学ぶ深海のフシギ
シーラカンスがなぜ「生きる化石」と呼ばれ、どのように深海で生き続けているのか、そのヒミツに少し触れることができました。彼らの体のつくり一つ一つが、何億年もの時を経て安定した深海の環境に適応した結果なのです。
彼らの存在は、深海という場所が、地球の長い歴史の中で環境があまり変わらず、太古の生物が生き残るための「避難場所」のような役割も果たしてきた可能性を示唆しています。
図鑑で大昔のシーラカンスの化石の写真と、今のシーラカンスの写真を見比べてみるのも面白いでしょう。また、シーラカンスのユニークなヒレの動きや、油分の多い浮き袋による浮力の調整は、深海の生きものが重力や水圧とどう向き合っているのかを考えるヒントになります。身近なもので浮力や圧力について実験してみるのも良いかもしれません。
シーラカンスのように、深海にはまだまだ私たちの知らないふしぎな生きものがたくさんいます。彼らがどのようにしてこの過酷な環境で生きているのかを知ることは、地球上の生命の多様性と適応進化の驚きを私たちに教えてくれます。