なぜ泳がずにフワフワ浮いていられるの?深海生物のフシギな浮遊術
広大な深海を漂うフシギな生きものたち
深海は、太陽の光が届かず、冷たく、そして想像もできないほど高い水圧の世界です。そんな過酷な環境で、深海生物たちは生き残るために様々な「適応進化」をとげてきました。
餌も少なく、泳ぎ回るのにも多くのエネルギーが必要な深海。ここで効率的に生きるためには、どうすれば良いでしょうか?実は、多くの深海生物は、積極的に泳ぎ回るのではなく、エネルギーを節約しながら水の中を「漂う」というユニークな生き方を選んでいます。
でも、体の重さがあるのに、なぜ特別な力を借りずに水の中にフワフワと浮いていられるのでしょうか?今回は、深海生物たちが持つ、驚きの「浮遊術」のヒミツに迫ります。
エネルギーを節約!浮いて生きるメリットとは?
私たちが地上で立っていられるのは、地面があるからです。水中では、私たちは泳ぐか、何かにつかまるかしないと沈んでしまいますね。これは、私たちの体が水より重いからです。
深海生物が水中でフワフワと浮いていられるのは、「浮力」という力が働いているからです。浮力とは、水などが物体を上向きに押し上げる力のこと。水に浮くためには、この浮力が体の重さよりも大きくなるようにすれば良いのです。
陸上の生きものや、海面近くに住む魚の多くは、骨や筋肉がしっかりしていて重いため、泳いだり、水面に浮かんだりするのにエネルギーを使います。しかし、深海では餌が少ないため、無駄なエネルギー消費は避けたいところ。そこで、多くの深海生物は、体を軽くして、少ない力で水に浮いていられるように進化しました。
浮いて生きることのメリット
- エネルギー節約: 泳ぎ回るより、漂っている方が圧倒的にエネルギーを使わなくて済みます。
- 待ち伏せ: 餌が近くを通るのを、動かずにじっと待つことができます。
- 広い範囲を探す: 自分で泳がなくても、海流に乗って広い範囲を移動し、餌を探すことができます。
このように、浮いて生きることは、深海の環境に適した賢い戦略なのです。
体を軽くする驚きの「浮遊術」
では、深海生物たちは具体的にどのようにして体を軽くし、水中に浮いていられるようにしているのでしょうか?いくつかの方法を見てみましょう。
1. 体を「ゼラチン質」にする
「ふしぎな深海生きもの大ずかん」の他の記事でも触れていますが、深海生物の中には、クラゲのように体がゼラチン質でできているものがたくさんいます。ゼラチン質は、私たちが知っているゼリーのような、水分を多く含んだプルプルした物質です。
筋肉や硬い骨、殻などは重いですが、ゼラチン質は大部分が水分でできているため、とても軽いのです。体をゼラチン質に変えることで、体の全体的な重さ(これを比重といいます。水より重ければ沈み、軽ければ浮きます)を水に近づけることができます。
例えば、一部のナマコや、泳ぎが得意ではないアンコウの仲間などは、体がゼラチン質でフワフワしています。
2. 体に「油」や「脂肪」を蓄える
水よりも軽い物質として、油や脂肪があります。深海生物の中には、体にたくさんの油や脂肪を蓄えることで浮力を得ているものがいます。
有名な例としては、一部の深海性のサメや、マッコウクジラの頭部にある「脳油」などがあります。(マッコウクジラは哺乳類ですが、深海で活動します)。深海魚の中にも、筋肉の代わりにたくさんの脂肪を蓄えている種類がいます。油は水に浮く性質があるため、体に油が多いほど、水に浮きやすくなるのです。
3. 「浮き袋」を使う魚も
海面近くに住む多くの魚は、体の中に「浮き袋」という organ を持っています。これは、空気や酸素などのガスをためて、体の浮き沈みを調整する袋です。
深海にも浮き袋を持つ魚はいますが、高い水圧に耐えるために、陸上の魚の浮き袋とは少し仕組みが違ったり、代わりに油などをためて浮力を得たりする種類もいます。深海の高い水圧の中では、ガスをためた浮き袋を維持するのが難しいため、ゼラチン質や油を利用する方が効率的な場合が多いのです。
4. 体の形や姿勢の工夫
直接浮力を生み出すわけではありませんが、体を広げたり、特殊な姿勢をとったりすることで、水中でゆっくりと沈むのを防いだり、漂いやすくしたりする工夫もあります。
自由研究のヒント:身近なもので「浮力」を体験!
深海生物の浮遊術は、私たちの身の回りの現象にもつながっています。例えば、水に油を垂らすと油が浮くのは、油が水より比重が軽いからです。
- 比重を比べてみよう! いろいろなものを水に入れて、浮くか沈むか調べてみましょう。同じ大きさでも、素材が違うと浮き方が変わることに気づくかもしれません。
- 「水クラゲ」を作ってみよう! ペットボトルに少しだけ水を入れたものを、水を入れた大きなペットボトルの中に入れます。大きなペットボトルをギュッと押すと、中の「水クラゲ」が沈みます。手を離すとまた浮かんできます。これは、押すことで「水クラゲ」の中の空気が縮んで比重が大きくなるからです。深海の高い水圧で、深海生物の体がどうなるか想像するヒントになるかもしれません。(ただし、深海生物は水圧に耐える特別な体のつくりをしています!)
深海で生き抜くための知恵
深海生物が泳がずに水中にフワフワ浮いていられるのは、体を軽くするための様々な工夫があるからです。ゼラチン質、油、そして限られた種類の浮き袋など、彼らは過酷な環境でエネルギーを効率よく使うために、驚くべき「浮遊術」を進化させてきました。
次に図鑑や映像で深海生物を見かけたら、「この子は、どうやって水に浮いているのかな?」と考えてみてください。そこには、深海で生き抜くための彼らの賢い知恵と、長い時間をかけた適応進化の物語が隠されています。深海生物たちのフシギな世界の探求は、まだまだ続きます。