なぜ潰れない?深海の生きものが高水圧で生きるフシギな体のつくり
地上とは大違い!深海の「水圧」ってどれくらい?
深海の世界は、私たち地上の生きものからは想像もできないほど、厳しく、そしてフシギに満ちた場所です。太陽の光が届かない暗闇、凍えるような冷たさ、そして何よりも驚くべきは、体のすみずみまでにかかる「水圧」のすごさです。
水圧は、水の重さによって発生する圧力のこと。深くなればなるほど、その上にある水の量が増えるため、水圧もどんどん大きくなります。例えば、海面からわずか10メートル潜るだけで、私たちは地上にいるときの約2倍の圧力を感じます。水深1000メートルともなると、その圧力はなんと地上の約101倍!これは、体の1平方センチメートルあたりに、約101キログラムもの重さがのしかかっているのと同じくらいの力です。もし地上の私たちがそのまま深海に降りたら、ぺしゃんこに潰されてしまうでしょう。
でも、深海にはたくさんの生きものたちが元気に暮らしています。体のやわらかいクラゲのような生きものもいれば、魚やイカの仲間もいます。一体、どうやってこの途方もない水圧の中で、彼らは潰されずに生きているのでしょうか?
体の内側と外側、圧力が同じだから大丈夫!
深海生物が高水圧に耐えられる最大のヒミツは、彼らの体が水で満たされていて、体の内側にかかる圧力と、外側からかかる水圧が同じになっていることです。
私たちの体もほとんどが水分でできていますが、深海生物の体はさらに水分の割合が高く、骨などの硬い部分が少ない傾向があります。水は空気のように簡単に圧縮されません。例えるなら、空気をパンパンに入れた風船は押すと簡単に小さくなりますが、水をいっぱいに入れた袋は、強く押してもあまり形が変わりませんよね。
深海生物は、体の外側から強い水圧を受けていますが、体の中の水分も同じようにギュッと押されています。内側と外側から同じ力で押さえつけられているため、体全体としては圧力のバランスが取れていて、潰されることがないのです。
深海で生きるための「フシギな体のつくり」
内と外の圧力が同じ、というのは深海生物に共通する基本的な仕組みですが、さらに彼らは、厳しい高水圧環境に適応するために、驚くほどユニークな体のつくりを進化させてきました。
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浮き袋がない、または小さい 地上の魚の多くは、体の中に「浮き袋」という空気の袋を持っていて、これを使って水に浮く深さを調節しています。しかし、空気のような気体は圧力によって大きく体積が変わってしまいます。深海のような高い水圧環境で浮き袋があると、圧力で潰されて浮力を失うだけでなく、急な圧力変化に耐えられず、大きなダメージを受けてしまいます。そのため、深海に暮らす魚の多くは浮き袋を持っていなかったり、持っていても非常に小さかったりします。
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骨や筋肉が弱い、ゼラチン質や脂肪が多い 硬くてしっかりした骨や、力を入れて動かすための筋肉は、地上の生きものにはとても重要です。しかし、深海では、硬い部分は圧力が集中しやすく、ダメージの原因になることがあります。また、筋肉を動かすにはたくさんのエネルギーが必要ですが、深海は餌が少ないため、エネルギーを節約する必要があります。 そこで、深海生物の中には、骨が軟骨質で柔らかかったり、筋肉が少なかったりするものが多くいます。そして代わりに、体を支えるためにゼラチン質や脂肪を多く持っているフシギな姿の生きものがたくさんいます。ゼラチン質は水分をたくさん含んでいて、圧力で形が崩れにくく、体をやわらかく支えることができます。あの有名なブロブフィッシュも、このゼラチン質の体を持つ仲間です。また、脂肪も水より軽く、体を浮かせる助けになる上、エネルギーを蓄える役割も果たします。
このような、まるでプニプニとしたゼリーのような体は、高い水圧を受け流し、少ないエネルギーで深海を漂うように生きるための素晴らしい適応なのです。
体のつくりを活かした深海での暮らし
ゼラチン質の体を持つ深海生物は、地上や浅い海にいる魚のように素早く泳ぎ回ることは得意ではありません。多くは、フワフワと漂いながら、上から降ってくるデトリタス(生物の死骸や排泄物など)を食べたり、目の前に来た獲物をゆっくりと捕まえたりして暮らしています。硬い骨やたくさんの筋肉を持たないことで、体を維持するエネルギーを抑え、餌の少ない深海で効率的に生きているのです。
深海の水圧を考えてみよう!自由研究のヒント?
深海の高水圧を直接体験することは難しいですが、身近なもので「圧力」の存在を感じてみることができます。
例えば、水を入れたペットボトルを水槽に沈めてみると、深いところほど横から押される力が強くなることをなんとなくイメージできるかもしれません(浅い水槽では変化は分かりにくいですが)。また、空気を入れた袋と水を入れた袋を同じように押してみることで、どちらが潰れやすいか(圧縮されやすいか)を比べるのも面白いでしょう。
さらに、深海生物の体が水分が多いことに関連して、身近なもので水圧や浸透圧を考える実験もできます。例えば、ペットボトルにお湯と氷水を入れて、ペットボトルの形がどう変化するか観察してみるのも、温度による体積の変化、そしてそれに伴う圧力の変化を感じるヒントになります。
まとめ:過酷な環境だから生まれた、驚きの体の工夫
深海の生きものたちが持つ、ゼラチン質の体や浮き袋を持たないといったフシギな体のつくりは、何もない場所で偶然できたものではありません。何億年もの長い時間をかけて、あの過酷な高水圧という環境で生き残るために、少しずつ進化してきた素晴らしい「適応」の結果なのです。
深海生物たちの体には、彼らが生きる世界の厳しさと、それを乗り越えるための驚くべき工夫がたくさん詰まっています。ぜひ、図鑑などで深海生物の姿を見かけたら、「この体は、あの厳しい環境で生きるために、どんな工夫がされているのかな?」と考えてみてください。きっと、新たな発見があるはずです。