なぜ深海生物は長い触覚があるの? 暗闇で触るチカラのヒミツ
真っ暗な深海世界で周りを知る方法
光がほとんど届かない深海は、私たちには想像もつかないほどの暗闇の世界です。そんな場所で、深海生物たちはどのようにして餌を見つけ、敵から身を守り、仲間を探しているのでしょうか?
これまで、「ふしぎな深海生きもの大ずかん」では、暗闇でも光を捉えるための大きな目や、獲物を引き寄せる発光器、水流のわずかな変化を感じ取るセンサーなど、さまざまな「見る」「光る」「感じる」能力についてご紹介してきました。
今回は、深海生物が持つもう一つのフシギな能力、「触るチカラ」に注目してみましょう。特に、驚くほど長い触覚やヒゲを持つ深海生物たちが、この暗闇の世界でどのように生きているのか、その秘密を探っていきます。
長い触覚やヒゲは「暗闇センサー」
地上の生きものも、何かを手で触ったり、ヒゲで周りを確認したりすることがありますね。猫や犬のヒゲは、狭い場所を通れるかを測ったり、空気の流れを感じたりするのに役立っています。
深海生物が持つ長い触覚やヒゲは、まさにこの「触る」という感覚を極限まで発達させた「暗闇センサー」と言えます。
深海の環境は、真っ暗なだけでなく、海底は泥や砂でできていたり、ゴツゴツした岩場だったり、複雑な地形が多い場所です。また、泳ぎが得意ではない生きものや、普段はじっとしている生きものもたくさんいます。
このような場所で、視覚だけでは周囲の状況を把握するのは難しいでしょう。長い触覚やヒゲは、生物が直接触れることで、次のような情報を集めるのに役立っていると考えられています。
- 地形の確認: 海底の起伏や障害物に触れて、安全に進めるか、隠れる場所があるかなどを知る。
- 餌の探索: 泥の中や岩陰に隠れている小さな生きものに触れて、その存在や形を感知する。
- 敵の感知: 近づいてくる他の生物の体に触れたり、それが起こす水流の変化を触覚で感じ取ったりして、危険を察知する。
深海生物のフシギな触覚たち
深海には、非常に長い触覚やユニークな形のヒゲを持つ生物がたくさんいます。いくつか例を見てみましょう。
驚きの長さ!ツノナシオキアミの触角
オキアミの仲間であるツノナシオキアミは、自分の体よりもはるかに長い触角を持っています。まるで細いムチのようなこの長い触角を、泳ぎながら周囲に伸ばし、暗闇の中で何かを探るように使っていると考えられています。広範囲を探ることができるため、効率よく餌や情報を集めることができるのでしょう。
海底を探る長い腕と触覚:テナガオオホシエビ
名前に「テナガ」とつくテナガオオホシエビは、その名の通り、非常に長い腕を持っています。これらの長い腕や、やはり長い触角を使って、海底の泥や砂の中を丹念に探り、隠れている小さな獲物を見つけ出します。まるで手探りで宝物を探しているようですね。
味もわかる?深海魚のヒゲ
深海魚の中にも、口元などに特徴的なヒゲを持つ種類がいます。例えば、ヒゲキホウボウという魚は、口の下に複数の長いヒゲがあります。これらのヒゲは単なる飾りではなく、触覚センサーであると同時に、獲物の「味」を感じ取る味覚器の役割も兼ねていると考えられています。海底を探りながら、触れて、美味しいものかを確かめているのかもしれません。
触覚センサーの仕組み
長い触覚やヒゲには、非常に細かい「感覚毛(かんかくもう)」と呼ばれる毛がたくさん生えています。この感覚毛が、物に触れたときの刺激や、周りの水のわずかな動き(水流)をキャッチします。
キャッチされた情報は、神経を通じて脳に伝えられ、「そこに何があるのか」「水はどちらに流れているのか」といった情報として認識されるのです。まるで高性能なアンテナやセンサーが集まった装置のようなものですね。
深海サバイバルのための「触るチカラ」
このように、深海生物の長い触覚やヒゲは、暗闇という極限環境で生き残るための重要な「適応」の一つです。視覚に頼れない状況で、触覚という別の感覚器を発達させることで、餌を見つけ、敵から逃れ、自分の居場所を確認しています。
もし、私たちが真っ暗な部屋で手探りで歩くときのように、深海生物も長い触覚を頼りに進んでいるのかもしれません。体のつくりを巧みに変化させて、どんな環境でも生きていけるように進化してきた深海生物たちのフシギなチカラには、本当に驚かされますね。
深海生物の触覚やヒゲの形や長さに注目して観察してみると、彼らがどのように周りを感じ取っているのか、想像力が膨らむでしょう。暗闇で周りの物を触って形を当てる遊びや、水の中で棒などを動かして水の流れを感じてみるなど、身近な感覚遊びから深海生物の「触るチカラ」に思いを馳せてみるのも面白いかもしれませんね。