暗闇で音をキャッチ!深海生物の聞くチカラのフシギ
深海はどんな世界?
地球上のほとんどの場所は、太陽の光が届いています。でも、海の深い深い場所、深海は太陽の光がほとんど届かない、真っ暗闇の世界です。そんな厳しい環境で暮らす深海生物たちは、いったいどうやって周りの様子を知り、仲間とコミュニケーションをとったり、敵から身を守ったりしているのでしょうか?
これまで、「ふしぎな深海生きもの大ずかん」では、暗闇でも物を見るための大きな目や、光を出してコミュニケーションをとる方法など、深海生物の様々な工夫をご紹介してきました。今回は、光に頼れない深海で、生きものたちがどのように「音」を使いこなしているのか、そのフシギな能力に迫ってみましょう。
深海と音の関係
深海は光が届きませんが、実は「音」がとてもよく伝わる場所です。地上や浅い場所では、空気や水によって音の伝わり方が違いますが、深海のように水がたくさん詰まった場所では、音が遠くまで、そして速く伝わります。
人間は空気中で音を聞きますが、水の中でも音を聞くことができます。水中で耳を澄ますと、地上とは少し違った響きに聞こえますね。深海に住む生きものたちも、この「音がよく伝わる」という特徴を利用して生きているのです。
深海生物はどうやって音を聞くの?
私たち人間は耳で音を聞きますが、魚たちも音を聞くための特別な器官を持っています。
体で感じる「側線」
魚の体の側面には、頭から尾にかけて一本の線のようなものが見えます。これが「側線(そくせん)」と呼ばれる器官です。側線には小さな穴が開いていて、その中には感覚細胞がたくさん並んでいます。
水中で何かが動くと、水の流れや小さな振動が発生します。側線はこの水の動きや振動をキャッチするセンサーのような役割を果たします。深海魚の中には、暗闇で獲物が出すわずかな水の動きを感じ取ったり、近づいてくる敵の動きを察知したりするために、側線がとても発達している種類がいます。側線は、耳で聞く音とは少し違いますが、水を通ってくる振動や低い周波数の音を感じ取る重要な「聞くチカラ」の一つと言えます。
体の中で聞く「耳石」
魚の頭の中には、「耳石(じせき)」と呼ばれる小さな石のようなものが入っています。これは炭酸カルシウムでできた硬い組織です。耳石は、水の振動(音)が魚の体を通して伝わってきたときに揺れ動き、その動きを周りの感覚細胞が受け取って、脳に「音が聞こえた」と伝える役割をしています。
人間でいうと、耳の中にある小さな骨(耳小骨)や、体の平衡感覚を司る部分に似ています。魚の耳石は、音を聞くだけでなく、体がどちらに傾いているか、どちらの方向に進んでいるかといったバランス感覚にも関係しています。深海魚の中には、真っ暗闇で自分の位置を知ったり、音を使って獲物や仲間を探したりするために、この耳石が大きくなっている種類もいます。
深海生物は音をどう利用するの?
深海生物は、音を聞くだけでなく、自分で音を出してコミュニケーションをとったり、身を守ったりすることもあると考えられています。
例えば、ある種の深海魚は、浮き袋(お腹の中にあるガスが詰まった袋)を使ってブルブルと震えるような音を出すことが知られています。この音は、仲間同士で場所を知らせ合ったり、オスがメスに求愛したり、敵を威嚇したりするために使われているのではないかと考えられています。
また、獲物が発するかすかな音を聞きつけて捕まえたり、逆に自分が音を出さないように静かに移動したりするなど、音を使った様々な生存戦略があると考えられています。静かで暗い深海だからこそ、わずかな音や振動が重要な情報源となるのですね。
もっと調べてみよう!
深海生物の音に関する能力は、まだ私たちがあまり知らないフシギがたくさんあります。どんな音が深海を伝わっているのか、深海生物はどんな音を聞き分けているのか、音を使ってどんな秘密の会話をしているのか...。
もし興味を持ったら、身近な水の音について調べてみるのも面白いかもしれません。例えば、洗面器に水を張って、その中で指を動かしたり、軽く叩いたりした音を聞いてみましょう。空気中で聞く音とどう違うでしょうか?水の中での振動の伝わり方を観察してみるのも、自由研究のヒントになるかもしれませんね。
まとめ
光が届かない深海で、深海生物たちは「音」をうまく利用して生きています。体の側面にある側線で水の動きや振動を感じ取ったり、頭の中にある耳石で音を聞いたりして、周りの様子を知るための「聞くチカラ」を発達させてきました。さらに、自分で音を出して仲間とコミュニケーションをとったり、敵や獲物を探したりすることもあるようです。
深海の生きものたちが持つ、私たちには想像もつかないようなユニークな能力を知ると、彼らがどんなに素晴らしい適応を遂げてきたのかが分かりますね。これからも、深海のフシギな生きものたちの世界を一緒に探検していきましょう!