暗闇のわずかな光も逃さない!深海生物の目のスゴい仕組み
深海は光が届かない世界
太陽の光は、海に入るとすぐに弱くなり、水深200メートルも潜ると、ほとんど届かなくなります。さらに深い深海は、光が全く届かない、真っ暗闇の世界です。
そんな厳しい環境で、深海生物たちはどのように周りを見ているのでしょうか?
もちろん、彼らは目だけに頼っているわけではありません。音を感じる能力や、水の流れ、そして匂いなど、さまざまなセンサーを使って世界を認識しています。しかし、深海生物の中には、私たちが見慣れている地上や浅い海にいる生きものとは全く違う、とても特別な「目」を持っている種類がたくさんいます。
今回は、深海の生物たちが暗闇のわずかな光を捉え、生き残るためにどのように目を進化させてきたのか、その「スゴい仕組み」に迫ってみましょう。
わずかな光をかき集める「巨大な目」
深海に棲む魚の中には、体に対して信じられないほど大きな目を持っている種類がいます。たとえば、オニキンメやデメニギス(デメニギスについては別の記事でも紹介していますね)などです。
なぜ、彼らの目はこんなに大きいのでしょうか?
これは、真っ暗な環境でできるだけ多くの光を集めるための適応です。カメラのレンズと同じように、目が大きければ大きいほど、広い範囲からより多くの光を取り込むことができます。深海には、太陽の光は届かなくても、他の深海生物が発する「生物発光」など、わずかな光が存在します。大きな目は、こうしたかすかな光のサインを見逃さないために進化してきたと考えられています。
私たちが暗い場所で物を見ようとする時、瞳孔(ひとみ)が大きく開くのと同じように、深海生物は常に「大きく開いた瞳孔」のような、光を取り込みやすい構造の目を持っているのです。
光を二度見て効率アップ!「タペタム」の仕組み
さらに効率的に光を捉えるための、もう一つのスゴい仕組みがあります。それは、「タペタム(輝板:きばん)」と呼ばれる特殊な層が目の奥にあることです。
タペタムを持つ生物の目は、暗いところで光を当てるとキラッと光って見えます。猫や犬の目が暗闇で光って見えるのも、彼らの目にタペタムがあるからです。
このタペタムは、網膜(目の中で光を感じる部分)を通り抜けた光を反射させて、再び網膜に戻す働きをします。つまり、光が網膜を二度通ることで、一度通るよりも多くの光を感じ取ることができるのです。これにより、深海の生物は、私たちがほとんど認識できないような、ごくわずかな光でも、しっかりと捉えることができるようになっています。
このタペタムの反射の色や構造は、生物の種類によってさまざまです。これは、彼らがどのような光(例えば、仲間の生物発光の色など)をより効率的に捉えたいかに合わせて進化してきた結果かもしれません。
特定の光に特化した目
深海には、自分自身が発光する生物がたくさんいます。また、他の生物が発する光を利用してコミュニケーションをとったり、獲物を探したりする生物もいます。
こうした環境では、特定の波長の光(特定の色)を効率的に見分けることができる目が有利になります。一部の深海魚は、自分たちの仲間が出す光の色に合わせて、その光を最もよく感じ取るように目が進化しています。
また、中には「光る目」のように見えるものもいます。これは、目の周りに発光バクテリアを共生させて、まるでヘッドライトのように前方を照らしながら泳ぐ魚(ソコボウズの仲間など)です。これは、目そのものが発光しているのではなく、共生による光を目と組み合わせて利用する、別の進化の形と言えるでしょう。
まとめ:暗闇を生き抜く目の進化
深海生物の目は、私たちが普段使っている「見る」という能力とは、全く違う方法で機能するように進化してきました。目を大きくしてたくさんの光を集めたり、タペタムで光を二度見て効率を高めたり、特定の光に特化したり…。
こうしたユニークな目の仕組みは、彼らが真っ暗で冷たい、そして高い水圧がかかる深海という過酷な環境で生き残るために、長い時間をかけて獲得してきた「適応」の結果なのです。
彼らの目の秘密を知ることで、深海生物たちがどのように世界を見ているのか、少し想像できたでしょうか?もし身近にいる動物の目が暗闇で光るのを見かけたら、それは深海生物と同じように「タペタム」を持っているからかもしれませんね。深海生物の適応進化は、私たちのすぐそばにある現象とも意外な繋がりがあるのかもしれません。