なぜ深海魚の口は大きく、胃は伸びるの?少ない餌を逃さない体のヒミツ
暗闇の深海で獲物と出会う奇跡
深海は、太陽の光がほとんど届かない真っ暗闇の世界です。水圧は高く、水温はとても冷たい、生きものにとって非常に厳しい環境です。そして、地上や浅い海に比べて、餌となる生きものもずっと少ない場所です。
そんな過酷な深海で生きる魚たちの中には、私たちが見ると「どうしてこんな体をしているんだろう?」と思うような、フシギな体のつくりを持つものがたくさんいます。その一つが、「大きく開く口」と「風船のように伸びる胃」を持つ深海魚たちです。
なぜ、深海魚はこんなにも大きな口と、伸びる胃を持っているのでしょうか?それは、深海で生き残るための、とても賢い「適応進化」の結果なのです。
一度出会った獲物は絶対に逃さない!「大きく開く口」のヒミツ
深海は餌が少ないため、一つの獲物と出会うのはとても貴重なチャンスです。いつ次に餌に出会えるか分かりません。そのため、深海魚たちは、せっかく出会えた獲物を絶対に逃さないように、独特の体のつくりを進化させてきました。
その代表的なものが、「大きく開く口」です。例えば、フクロウナギという魚は、体の割には口がとても大きく、顎の関節が大きく外れるようにできています。オニボウズギスなども、巨大な口を持っています。
なぜこんなに大きな口が必要なのでしょうか?
それは、
- 暗闇で確実に捕らえるため: 真っ暗闇の中では、獲物を見つけること自体が大変です。やっと目の前に来た獲物を、確実に捕らえるためには、広い範囲を一度にカバーできる大きな口が有利になります。
- 自分より大きな獲物も食べるため: 深海では、いつどんな獲物に出会うか予測できません。もしかしたら、自分よりも大きな魚に出会うこともあるかもしれません。そんな貴重なチャンスを逃さないために、大きな口で自分よりも大きな獲物さえも丸ごと飲み込めるように進化してきたのです。
大きな口は、まるで深海という名の「宝くじ」で、せっかく当たった「獲物」というチャンスを確実に手に入れるための、頼もしい味方なのです。
少ない餌を無駄にしない!「風船のように伸びる胃」のフシギ
深海では、いつ次の食事ができるか分かりません。もしかしたら、今日が何日かぶりの食事かもしれません。だからこそ、一度餌にありつけたら、それを最大限に利用する必要があります。
ここで活躍するのが、「風船のように伸びる胃」です。多くの深海魚の胃は、非常に弾力性があり、食べた量に応じてゴム風船のように大きく膨らむことができます。フクロウナギの胃は、特に大きく伸びることで知られています。
この「伸びる胃」には、主に二つの役割があります。
- 一度に大量の餌を貯める: 少ない餌資源の中で、一度の食事でできるだけ多くのエネルギーを蓄えるため、見つけた餌をまとめて食べられるように胃が大きく伸びます。次にいつ食事ができるか分からない「飢え」に備えるためです。
- 大きな獲物を消化するため: 大きな口で丸ごと飲み込んだ自分よりも大きな獲物も、この伸びる胃のおかげで体の中に収めることができます。時間をかけてゆっくり消化することで、エネルギーを効率よく吸収できるのです。
例えば、風船に空気をたくさん入れると大きく膨らみますね。深海魚の胃も同じように、たくさんの餌が入ると大きく膨らむことで、貴重な栄養を無駄なく体に貯め込むことができるのです。
過酷な環境への適応の証
深海魚の大きく開く口と伸びる胃は、単にフシギな形をしているだけでなく、暗く、冷たく、水圧が高く、そして餌が少ないという、深海という特殊な環境で生き残るための素晴らしい「適応」なのです。
次に深海魚の図鑑を見たり、映像を見たりする機会があったら、ぜひその口や体の形に注目してみてください。「どうしてこんな形なの?」という疑問は、「この生きものは、この環境でどうやって生きているんだろう?」という、深海生物たちの知恵と工夫、そして生命のたくましさを知る入口になるはずです。
深海魚たちの体のフシギなつくりには、彼らが長い時間をかけて、過酷な環境に懸命に適応してきた歴史が詰まっているのですね。