なぜ深海魚は骨や筋肉が少ない?過酷な環境への適応のヒミツ
深海魚のフシギなフニャフニャボディ
深海生物の姿を見ると、「あれ?なんかフニャフニャしてる?」「骨が少なそう?」と感じることがあります。例えば、あのちょっとユニークな見た目のニュウドウカジカや、海底にじっとしていることの多いクサウオの仲間などは、まさにそんな印象かもしれません。
陸上の生きものや浅い海にいる魚は、しっかりした骨や筋肉を持っていて、体を支えたり、力強く泳いだりしていますね。ところが、水深数百メートル、時には数千メートルもの深い海に暮らす魚たちの中には、どうしてこんなに骨や筋肉が少ない、柔らかい体つきになったのでしょうか?
これは、深海という特殊な環境で生き抜くための、彼ら独自の「適応進化」の結果なのです。今日は、深海魚の骨や筋肉が少ないことのフシギなヒミツを探ってみましょう。
高い水圧への適応:硬いより柔らかく
深海で生きる深海魚たちが直面する最も大きな課題の一つが、「高水圧」です。水深が10メートル深くなるごとに水圧は約1気圧ずつ増えます。水深1000メートルでは、地上と比べて約100倍もの水圧がかかっていることになります。これは、1平方センチメートルあたり10キログラムの重さがかかるイメージです。
もし、しっかりとした硬い骨や筋肉を持つと、この圧倒的な水圧の中で体を動かしたり、体を維持したりするのに、大きな抵抗力がかかります。想像してみてください、カチカチのものを押しつぶそうとする方が、フニャフニャのものを押しつぶすより力がいりますよね。
深海魚たちは、骨や筋肉といった硬く密度の高い組織を減らし、代わりに水分を多く含むゼラチン質の組織を発達させることで、この高水圧にうまく適応しました。体が柔らかいことで、高い水圧を受けても体の内外の圧力を均等に保ちやすく、構造が潰れにくいのです。まるで、パンパンに空気を入れた風船よりも、少し空気を抜いた風船の方が、周りからの圧力に柔軟に対応できるようなイメージです。
エネルギー節約への適応:少ない餌で生きるため
深海は、太陽の光が届かない真っ暗闇の世界です。光合成をする植物は存在せず、餌となる有機物は浅い海から沈んでくるものだけ。そのため、深海は全体的に餌が非常に少ない「貧栄養」な環境です。
生きるためにはエネルギーが必要ですが、骨や筋肉を維持したり、力強く体を動かしたりするには、たくさんのエネルギーを消費します。深海魚たちは、エネルギーの消費を抑えるために、骨や筋肉といった、維持にコストがかかる組織を思い切って減らしました。
骨や筋肉が少ない彼らは、陸上や浅海の魚のように活発に泳ぎ回ることはできません。その代わりに、海底にじっと潜んでいたり、フワフワと漂いながら、近くを通る餌を待ち伏せて捕らえたりする戦略をとっています。これも、少ないエネルギーで効率よく生きるための賢い工夫なのです。
低酸素への適応:呼吸コストを抑える
深海は水圧が高いだけでなく、場所によっては酸素も少ない環境です。骨や筋肉は、活動するために多くの酸素を必要とします。酸素が少ない環境で多くの骨や筋肉を持つと、体の組織に十分な酸素を供給することが難しくなります。
骨や筋肉を減らすことは、体が必要とする酸素の量を減らすことにもつながります。これにより、深海の少ない酸素の中でも効率よく呼吸し、生命活動を維持することができるのです。
まとめ:弱々しいのではなく、驚くべき戦略
深海魚の骨や筋肉が少ないフニャフニャした体は、一見すると弱々しく見えるかもしれません。しかし、これは彼らが何千メートルもの深い海の、高い水圧、少ない餌、少ない酸素といった想像を絶する過酷な環境で生き残るために、長い時間をかけて獲得してきた、驚くべき「適応戦略」なのです。
硬い骨や力強い筋肉を持つことが有利な環境もあれば、柔らかく省エネな体を持つことが有利な環境もある。深海魚たちは、まさに深海というフシギな世界に合わせて、独自の体のつくりを発達させてきたのですね。深海生物たちの多様な姿や能力は、私たちに「生きる」ことの多様性や可能性を教えてくれます。彼らのフシギな体に隠されたヒミツを、もっと探求してみたくなりますね。