なぜ深海魚は目が小さかったり無かったりするの?光に頼らない暗闇の生き方
真っ暗な深海で、目が見えない生きものたち?
深海は、太陽の光がほとんど届かない、真っ暗な世界です。そんな場所で暮らす生きものたちは、私たちには想像もつかないようなユニークな体のつくりや能力を持っています。「ふしぎな深海生きもの大ずかん」では、彼らが過酷な環境にどのように「適応」してきたのか、そのヒミツをやさしく紐解いていきます。
さて、陸に住む多くの生きもの、そして浅い海に住む魚たちのほとんどは、目で光を捉え、周囲の様子を見て生活しています。しかし、深海には、「えっ、こんなに目が小さいの?」とか、ひどい時には「あれ?目がないみたい…」なんて深海魚もたくさんいるのです。
なぜ、深海の魚の中には目が小さかったり、ほとんど見えなかったりするものがいるのでしょうか?そして、もし目が見えないとしたら、彼らはどうやって暗闇の世界で餌を探したり、敵から身を守ったり、仲間と出会ったりしているのでしょうか?
なぜ、深海で目が小さくなるの?
真っ暗な深海で目が小さくなるのは、実はとても理にかなった「適応」の結果なんです。
まず、深海にはほとんど光がありません。光がなければ、いくら立派な目があっても、周囲を見ることはできませんね。私たちが電気のない真っ暗な部屋で目を開けていても何も見えないのと同じです。
目を作るためには、たくさんのエネルギーが必要です。私たち人間も、脳の次にたくさんのエネルギーを目で使っていると言われています。もし、光がほとんどない環境で、頑張ってエネルギーを使って大きな目を作っても、それが役に立たないとしたらどうでしょう?そのエネルギーは、別の場所に使った方が生き残るためには有利になります。
例えば、食べ物が少ない深海では、少しでも効率よくエネルギーを使いたいものです。そのため、「どうせ光がないなら、目は小さくてもいいや」とか、究極的には「いっそ目は作らないで、その分のエネルギーを他のことに使おう!」という方向へ、長い時間をかけて「進化」していったと考えられるのです。
これは、光が全く届かない地下の洞窟に住む魚や生物が、やはり目が退化してしまっているのと同じような理由からです。必要な能力は発達させ、必要ない、あるいは役に立たない能力はコストをかけないようにする。これが生きものたちの賢い適応戦略なのです。
目が使えない代わりに、彼らは「もう一つの目」を持っている!
では、目が小さかったり無かったりする深海魚たちは、どうやってあの真っ暗な世界で暮らしているのでしょうか?彼らは、視覚以外の他の感覚器を非常に発達させているのです。まるで、目が見えない代わりに別の感覚が研ぎ澄まされる、私たちにも起こりうるような現象が、深海で彼らの体に起こっているのです。
彼らの「もう一つの目」とも言える、主な感覚器をいくつかご紹介しましょう。
長い触覚やヒレのセンサー
多くの深海生物は、体から長い触覚や、特別な形をしたヒレを伸ばしています。これらは、光が届かない環境で、周囲の物体に「触れて」その形や位置を知るためのセンサーです。まるで、手探りで部屋の中を歩くように、彼らは触覚を使って海底の様子を探ったり、近づいてきた獲物や敵を察知したりします。アナゴの仲間など、細長い体が海底の泥の中を探るのに適した魚も、触覚や側線などの感覚に頼っていると考えられます。
発達した嗅覚(におい)
真っ暗な中でも、においは遠くまで伝わります。深海魚の中には、鼻の穴が大きかったり、特別な構造になっていたりして、わずかなにおいでも嗅ぎ分けられるようになっている種類がいます。彼らは、この優れた嗅覚を使って、離れた場所にいる獲物のにおいをたどったり、仲間や異性を探したりします。深海性のサメの仲間や、ソコボウズなどが嗅覚に優れていると言われています。
側線(水流を感じる)
多くの魚は体の側面に「側線」という器官を持っています。これは、水の流れや振動を感じ取るセンサーです。浅い海に住む魚も使いますが、暗闇の深海ではこの側線が特に重要になります。近づいてくる他の生物が作るわずかな水流の変化を感じ取ることで、敵が接近してきたことに気づいたり、近くにいる獲物の動きを探ったりすることができるのです。目がほとんど見えないホシエソなども、この側線が発達していると言われています。
音を聞くチカラ
音は水中をよく伝わります。深海生物の中には、自分から音を出してコミュニケーションをとる種類もいますが、それだけでなく、他の生物が出す音や、周囲の物理的な音を聞き取る能力も重要です。獲物が動く音、海底を這う音、他の生物の出す音などを感知することで、目が見えなくても周囲の状況を把握するのに役立てています。
まとめ:暗闇を生き抜く、多様な「見る」方法
このように、深海の生物たちは、光が届かないという環境に合わせて、目の機能は控えめにする代わりに、触覚、嗅覚、側線、聴覚といった、視覚以外の様々な感覚器を巧みに使いこなしています。彼らにとっては、これらの感覚こそが、私たちにとっての「目」と同じように、暗闇の世界を知覚し、生きるための頼りになる「もう一つの目」なのです。
深海生物の「目が小さい・無い」という特徴は、単に退化したり劣ったりしたのではなく、あの特殊な環境で最も効率よく生き残るための、素晴らしい適応進化の結果と言えます。彼らの多様でフシギな体のつくりや能力を知ることは、生物の適応の奥深さ、そして地球上の様々な環境で生きる生命の力強さを感じさせてくれますね。
私たちが普段「見る」という行為にどれだけ頼っているか、目を閉じて他の感覚に意識を集中してみると、深海生物たちの世界を少しだけ想像できるかもしれません。彼らがどのように世界を「見て」いるのか、これからも深海のフシギを探求していきましょう。