ふしぎな深海生きもの大ずかん

深海で降る雪ってナニ?マリンスノーを食べる生きもののフシギ

Tags: マリンスノー, 深海生物, 適応進化, 食性, 深海環境

深海に降る「雪」?マリンスノーとは

太陽の光が届かない、真っ暗な深海。陸から遠く離れた場所では、植物のように光合成をして栄養を作り出す生きものはいません。では、深海の生きものたちは一体何を食べているのでしょうか?

深海には、まるで雪のように、上からゆらゆらと降り積もってくるものがあります。これは「マリンスノー」と呼ばれています。本物の雪ではありませんが、白っぽい粒が水中を舞いながらゆっくりと沈んでいく様子が、雪が降るように見えることから名付けられました、海の「雪」なのです。

マリンスノーの正体は、海の表面近くにいるプランクトンや小さな生きものの死骸、フン、脱皮した殻、魚のウロコなどが集まって、ネバネバとした物質で固まったものです。これらが塊となって、何千メートルもの深さまで、気の遠くなるような時間をかけて沈んでいきます。

深海の貴重な食べ物、マリンスノー

陸上の森や浅い海には、植物が太陽の光を使って栄養を作り出し、それを草食動物が食べ、さらに肉食動物が食べる、という食物連鎖の始まりがあります。しかし、光が届かない深海では、植物は育ちません。

深海の生態系を支える栄養の多くは、このマリンスノーとして浅い海から運ばれてくるものです。マリンスノーは、深海の生きものたちにとって、とても貴重な「ごちそう」なのです。深海の環境は餌が非常に少ないため、この上から降ってくるわずかな栄養に頼って生きている生物がたくさんいます。

マリンスノーを食べる生きものたちのフシギな適応

マリンスノーは、深海の底に暮らす生きものたちにとって特に重要な食べ物です。深海底には、マリンスノーを食べることに適応した様々な生きものがいます。

たとえば、海底をゆっくりと這い回るナマコの仲間や、ウニの仲間、ヒトデの仲間などは、海底に積もったマリンスノーを泥と一緒に口に入れて、栄養分だけを消化吸収します。泥の中の栄養はわずかですが、彼らは広い範囲を探し回り、少しずつ集めて食べて生きています。泥の中の有機物や微生物を食べる彼らの食事方法は、「デトリタス食」と呼ばれます。

また、海底のすぐ上を漂っている生きものの中には、漂ってくるマリンスノーを効率よく捕まえる仕組みを持つものがいます。カイコウオウチュウのように、体を覆う粘液でマリンスノーをからめとったり、大きな口で水ごと吸い込んで濾しとったりする種類の生物もいます。

こうした生きものたちは、マリンスノーのように栄養の少ない食べ物から、最大限のエネルギーを得るために様々な適応をしています。代謝をゆっくりにしてエネルギーの消費を抑えたり、体の組織をゼラチン質のように軽くして、少ないエネルギーで体を維持できるようにしたりといった工夫が見られます。

マリンスノーから広がる深海の生態系

マリンスノーは、深海の食物連鎖の基盤となります。マリンスノーを食べる底生生物を、さらに別の捕食者が食べます。例えば、深海に住むカニやエビの仲間、一部の魚などが、ナマコなどを食べることがあります。

このように、海の表層から運ばれてくるマリンスノーは、深海の暗闇で生きる多くの生物たちの命をつなぐ、なくてはならない存在なのです。「海の雪」が、実は深海の豊かな(そしてフシギな)生態系を支えているというのは、驚きですね。

自由研究のヒント:身近な場所の沈殿物

マリンスノーは、海のプランクトンなどが集まって沈んでくるものですが、似たような現象は身近な場所でも見られます。川や池、水槽の底に溜まる沈殿物も、小さな生物の死骸や分解された有機物などが集まったものです。

もし興味があれば、身近な水辺の沈殿物を少しだけ取ってきて、虫眼鏡や顕微鏡で観察してみるのはどうでしょうか?どんなものが含まれているか、微生物はいるかなど、小さな世界を調べてみると、意外な発見があるかもしれません。これも、栄養がどのように集まり、分解されていくかという、食物連鎖や環境の仕組みを考える一つの入り口になります。

深海のマリンスノーも、そうした小さな粒が集まって、巨大な海の底の生きものを支えているのです。深海のフシギは、私たちの身近な世界とも繋がっているのかもしれませんね。