なぜ泥の中で生きられるの?深海生物のフシギな底の暮らし
深海の底はどんなところ?
地球の海の大部分を占める深い海底は、光が全く届かず、水温はわずか2度から4度と冷たく、そして非常に高い水圧がかかっています。さらに、多くの場所では、海の上のほうからゆっくりと沈んでくる細かい泥や有機物が堆積した「泥底」が広がっています。
この泥底は、一見すると何もなさそうに見えますが、実はたくさんの生きものたちがひっそりと暮らしている世界なのです。魚はもちろん、ナマコやヒトデ、巻貝、ゴカイ、エビやカニの仲間など、多様な生物が泥をすみかにしています。
でも、なぜこれらの生きものたちは、そんな泥の中で生きていけるのでしょうか?深海の泥底という特別な環境に適応するための、驚きの体のつくりや暮らしの工夫を見ていきましょう。
泥の中で暮らすための体のつくり
泥底に暮らす深海生物の体は、その環境に合わせた様々な特徴を持っています。
例えば、深海性のナマコの仲間には、泥の中に含まれる有機物を食べるものが多くいます。彼らは、海底に落ちてきたプランクトンの死骸や排泄物、微生物などを泥ごと吸い込んで、体の中で栄養だけを取り出し、残りを砂団子のように排出します。泥の中の少ない栄養を効率よく利用するために、消化の仕組みが特別に進化していると考えられています。体はやわらかく、泥の中をゆっくりと移動するのに適しています。
また、深海性のゴカイ(多毛類)の仲間は、泥の中にトンネルを掘って暮らしているものが多くいます。泥を掘り進むための特別な構造を持っていたり、体表のエラのような部分で泥水から酸素を取り込んだりしています。
硬い殻を持つ貝の仲間や甲殻類(エビ・カニ)も泥底に多く見られます。彼らは泥の中や表面を這ったり、時には泥に潜ったりして生活しています。例えば、深海性の巻き貝は、泥の中をスムーズに移動するための特殊な「足」を持っていたりします。エビやカニの仲間は、泥の中に隠れながら獲物を待ち伏せたり、泥の中の小さな生物を探して食べたりしています。高い水圧の中でも硬い殻を保っていられるのは、体の内部も外部と同じ高い圧力がかかっているため、内外の圧力差がほとんどないからです。
暗闇の泥底で獲物を見つける工夫
泥底は光が全く届かない暗黒世界です。そんな中で、彼らはどうやって餌を探したり、敵から身を守ったりしているのでしょうか。
多くの泥底生物は、視覚に頼ることができません。その代わりに発達しているのが、触覚や嗅覚、そして振動を感じる能力です。
例えば、泥の中を這うナマコやゴカイ、貝の仲間などは、体表や触手で泥の感触や化学物質を感じ取って、餌となる有機物や微生物の場所を見つけます。深海性のエビやカニの仲間も、長い触角を使って周囲の情報を探ったり、泥の中に潜む獲物の気配を感じ取ったりします。
また、泥の中を移動する他の生物や、海底に落ちてきた餌が起こすわずかな振動や水流の変化を感じ取る能力も、泥底での生活には欠かせません。
自由研究のヒント:身近な泥を観察してみよう!
深海の泥底は私たちには遠い世界ですが、実は私たちの身近な場所にも泥の中をすみかにしている生きものはたくさんいます。川の底や池のほとり、海の干潟などを見てみましょう。
- 泥の中にどんな生きものがいるか、どんな体の形をしているか観察してみましょう。彼らはどうやって泥の中で呼吸しているのかな? どうやって動いているのかな?
- 身近な泥と、深海の泥はどんなところが違うかな?(泥の細かさ、含まれるものなど)深海生物が泥の中で生きる工夫と比べてみるのも面白いかもしれません。
- もし、泥の中にいる小さな生きものを見つけられたら、彼らが何を食べているか、どうやって泥の中を移動しているか想像してみましょう。
深海の泥底に暮らす生きものたちは、私たちが想像する以上に多様で、驚くべき適応能力を持っています。彼らのフシギな暮らしを知ることは、地球上の様々な環境で生きる生命のたくましさや多様性を学ぶことにつながるでしょう。