ふしぎな深海生きもの大ずかん

なぜダンボオクトパスは耳があるの?フシギなヒレで深海を泳ぐ適応

Tags: ダンボオクトパス, 適応進化, 深海生物, 移動, オクトパス

まるでゾウの耳?フシギな姿のダンボオクトパス

水深数百メートルよりもっと深い、光もほとんど届かない海の底。そこには、まるで絵本から飛び出してきたかのような、フシギな姿の生きものたちが暮らしています。今回ご紹介するのは、その中でも特に目を引く「ダンボオクトパス」です。

ダンボオクトパスは、タコの仲間ですが、私たちがよく知っているタコとは少し違います。一番の特徴は、頭の上の方にピョコッと突き出た、まるでゾウの耳のような大きなヒレです。ディズニー映画の空飛ぶゾウ「ダンボ」に似ていることから、この名前がつけられました。

この「耳」のようなヒレ、一体何の役に立っているのでしょうか?ただ可愛いだけでなく、このフシギな形には、深海という特別な場所で生きるための大切な役割があるのです。

深海の厳しい環境とダンボオクトパスの暮らし

ダンボオクトパスが暮らすのは、とても過酷な環境です。そこは真っ暗で、水温は冷たく、そして何よりも、信じられないほど高い水圧がかかっています。地上では想像もできないような重さが、常に体の周りにかかっているのです。

また、深海には餌となる生きものが少なく、広い海の中で食べ物を見つけるのは大変です。そのため、深海で生きるためには、少ないエネルギーで効率よく動き、しっかりと餌を捕らえる工夫が必要になります。

ダンボオクトパスは、このような厳しい環境にどのように適応しているのでしょうか。そのカギの一つが、あの特徴的な「耳」のようなヒレなのです。

「耳」のようなヒレで深海を泳ぐフシギなチカラ

ダンボオクトパスの頭にある「耳」のように見えるものは、実はれっきとした「ヒレ」です。多くのタコは、外套膜(がいとうまく)の中にある漏斗(ろうと)から水を勢いよく吹き出す「噴水推進」という方法で素早く移動しますが、ダンボオクトパスは違います。

ダンボオクトパスは、この大きなヒレをパタパタと羽ばたかせるように動かして、ゆっくりと優雅に水中を移動します。まるで空を飛んでいるかのような、独特な泳ぎ方です。

なぜダンボオクトパスはこの方法で泳ぐのでしょうか?それは、深海での「省エネ」に適していると考えられています。噴水推進は素早い動きには向いていますが、その分たくさんのエネルギーを使います。一方、ヒレを使ったゆっくりとした泳ぎは、必要なエネルギーを抑えることができるのです。

少ない餌で生きる深海では、無駄なエネルギーを使わないことがとても重要です。ヒレを使った移動は、海底近くを漂いながらゆっくりと餌を探すダンボオクトパスの生活スタイルにぴったり合っています。

ヒレ以外の深海適応

ダンボオクトパスの深海への適応は、ヒレだけではありません。体全体が少しゼラチン質で柔らかくなっていることも、高水圧に耐えたり、体を軽くして浮力を得たりするのに役立っていると考えられます。

また、腕の間には「傘膜(さんまく)」と呼ばれる膜が大きく広がっています。この傘膜を広げたり閉じたりすることで、体の向きを変えたり、移動の補助に使ったりしているようです。もしかすると、小さな獲物を包み込むように捕まえたり、敵から身を守るためにも役立っているのかもしれません。

ユニークな形は生き残るための工夫

ダンボオクトパスの「耳」のようなフシギなヒレと、その他の体のつくりは、すべてあの暗く、冷たく、圧力が高い深海で生き残るための素晴らしい「適応」なのです。ゆっくりと効率よく泳ぎ、少ないエネルギーで広大な深海を移動し、餌を探す。そのために、このようなユニークな形に進化したと考えられます。

深海の生きものの姿かたちは、どうしてこんなに変わっているんだろう?そう疑問に思ったら、それは彼らが暮らす海の底の「環境」を考えてみることがヒントになります。「なぜその形なの?」「どんなチカラがあるの?」と考えてみると、深海生物のフシギがもっと面白く感じられるでしょう。ダンボオクトパスの「耳」のようなヒレも、まさにその一つですね。