なぜビーズイカは自分の光で姿を消すの? 深海のカウンターイルミネーションのヒミツ
暗闇でも見つかっちゃう?深海の中層で生きる工夫
深海というと、真っ暗な海の底を想像するかもしれません。でも、深海はとても広く、太陽の光が少しだけ届く「中深層」と呼ばれる場所もあります。この場所は、昼間でもぼんやりと薄明かりが差し込みますが、隠れる場所となる岩などが少なく、泳いでいる生きものにとっては、自分の体が作る「影」が天敵に見つかる原因になってしまうことがあります。
そんな、隠れるのが難しい深海の中層で、自分の身を守るために特別な能力を進化させた生きものがいます。それが「ビーズイカ」です。名前の通り、まるでビーズ玉のように小さくて丸い体をしています。
体の下が光る!ビーズイカのフシギな能力
ビーズイカには、体の下側にたくさんの小さな「発光器」が並んでいます。この発光器を使い、自分で光を出すことができるのです。深海で光る生きものはたくさんいますが、ビーズイカが出す光には、他の生きものとは違うユニークな秘密があります。
それは、この光を「姿を隠すため」に使っているということです。普通、光は自分を目立たせるために使われることが多いですよね。仲間とコミュニケーションをとったり、獲物をおびき寄せたり、敵を驚かせたりと、使い方は様々です。しかし、ビーズイカはまったく違う目的で光を出しているのです。
光と影を消す?カウンターイルミネーションの魔法
なぜビーズイカは、光ることで姿を隠せるのでしょうか?
深海の中層では、上の方からわずかに光が差し込んでいます。もしビーズイカがこの光を遮ってしまうと、体の下に濃い影ができてしまいます。これを下から見上げた魚などの捕食者は、「あ、何かがいるぞ」と気づいてしまうのです。
そこでビーズイカは考えました(といっても、これは進化の過程で自然に起きたことです)。「上から差し込む光と同じくらいの強さの光を、体の下から自分で出せばいいんじゃないか?」と。
これが、ビーズイカが行っている「カウンターイルミネーション」という適応です。まるで魔法使いが姿を消す呪文を唱えるように、ビーズイカは自分の発光器から光を出し、上からの光の強さに合わせて体の下側を明るくします。そうすることで、体の影を消し、下から見上げた捕食者からは、背景のわずかな光の中に溶け込んで、まるでそこに何もいないかのように見えるのです。
さらに驚くことに、ビーズイカは上から差し込む光の色や強さを感知して、出す光の強さや色(多くの場合、青白い光)を瞬時に調整する能力を持っていると考えられています。これは、周囲の環境光に完璧に溶け込むための、非常に高度な技術といえるでしょう。
姿を消す光の工夫から探求心を広げよう
ビーズイカのカウンターイルミネーションは、光がわずかに届く深海の中層という特殊な環境で、生き残るために生まれた素晴らしい適応です。自分の持つ能力を、逆転の発想で「隠れる」ために使う。深海生物の多様な生きる工夫の中でも、特にユニークな例の一つです。
このカウンターイルミネーションの仕組みは、私たちが普段目にすることにも少し似ています。例えば、逆光で人の顔が暗くなってしまう時、下から光を当てて顔を明るくすると影が薄くなりますね。また、夜景を撮影する際に、手前の被写体に光を当てて背景の明るさと合わせるような技術にも通じる考え方かもしれません。
ビーズイカの光る能力について、もっと深く知りたくなったら、発光生物の種類や、光の色が違う理由などを調べてみるのも面白いかもしれません。あるいは、身近なもので光と影を使った実験をしてみるのも、深海の生きものへの探求心を深めるきっかけになるでしょう。
ビーズイカの小さな体には、深海でたくましく生きるための、驚きの知恵と工夫が詰まっているのです。