なぜ深海魚の目は青い光に強い?色覚のフシギな適応
真っ暗な深海世界とわずかな光
深海は、太陽の光がほとんど届かない、冷たくて真っ暗な世界です。水深が深くなるにつれて、光はどんどん弱くなっていきます。特に、私たちが色として感じている光のうち、赤い光は比較的浅い場所で海水に吸収されてしまい、青い光は比較的深い場所まで届く性質があります。
そのため、水深200メートルよりも深い「漸深層」や、それよりさらに深い場所では、届く光はほとんどが青色系のわずかな光だけになります。まるで、世界中が青いフィルターを通したように見える、特別な環境なのです。
このような真っ暗で青い世界で生きる深海魚たちは、獲物を見つけたり、敵から身を守ったりするために、目の機能を進化させてきました。特に、この「色」に対する目の適応は、とてもフシギで面白いものです。
深海魚の目は「青」が得意?
私たちの目は、明るい場所で色を感じる「錐体(すいたい)細胞」と、暗い場所でわずかな光を感じる「桿体(かんたい)細胞」という2種類の視細胞を持っています。色を見分けるのは主に錐体細胞の働きです。
しかし、深海のように光が極端に少ない環境では、わずかな光を効率よく捉える能力がとても重要になります。そのため、多くの深海魚は、少しの光でも敏感に感じ取れるように、桿体細胞が非常に多く発達しています。
さらにフシギなことに、多くの深海魚の目にある視物質(光を受け取るタンパク質)は、わずかに届く「青い光」を最も効率よく捉えられるように特別な進化を遂げています。これは、まさに深海の環境に合わせた「色覚」の適応と言えます。青以外の色の情報はほとんど届かないので、青い光に特化して敏感になった方が、生きるうえで有利だからです。
青い世界でのサバイバル術
なぜ、深海魚たちは青い光に特化した目を持っているのでしょうか?
一つは、先ほど説明したように、深海に届く光がほとんど青色だからです。届かない色を見分ける能力を持っていても意味がありません。届く唯一の光である青い光を最大限に活用できるようにすることで、暗闇でも周りの様子を少しでも把握しやすくなります。
そして、もう一つ面白いのは、自分自身や仲間が発する光(生物発光)との関係です。深海には、光る生きものがたくさんいます。もし獲物が青い光で発光したら、青い光に敏感な目はそれを見つけやすくなります。
反対に、自分が敵から身を守るために光る場合、多くの深海魚の目は青い光に敏感なので、敵に発見されにくいように「赤い光」を発光する種類もいます。敵の目が青い光しかよく見えないなら、赤い光は暗闇に溶け込みやすく、自分の姿を隠すのに役立つというわけです。このように、深海生物の発光の色と、深海魚の色覚には、生き残るための深い関係があるのです。
色と光のフシギを考える
光の色と、それを見る生きものの目の関係は、身近なところでも少し感じることができます。例えば、暗い場所で本を読むと、色がよく見えなくなりますね。これは、暗い場所では色を感じる錐体細胞ではなく、明るさだけを感じる桿体細胞が主に働くようになるからです。
また、色セロハンを通して外を見てみると、世界の色が変わって見えます。赤いセロハンを通すと、赤い光だけを通すので、周りのものが赤っぽく見えたり、赤以外の色が黒っぽく見えたりします。水が光の特定の色を吸収する性質も、これと似たような原理です。ペットボトルに水を入れて、中に色々な色の折り紙などを沈めてみると、光の吸収によって色の見え方が変わる様子を少し体験できるかもしれません。
深海魚の青い光に特化した目は、光がほとんどない特別な環境で生き抜くための、驚きの適応進化です。私たちが普段当たり前だと思っている「色を見る」という感覚も、環境によって全く異なるものになることを教えてくれます。深海生物たちの多様な目の仕組みを知ることは、光と生きものの関係性の奥深さを学ぶことにつながるでしょう。