まるでガラス!チヒロデンキイカの透明な体と卵を守る深海サバイバル
まるでガラス!チヒロデンキイカの透明な体と卵を守る深海サバイバル
深海には、私たちの想像を超えるようなフシギな姿をした生きものたちがたくさん暮らしています。その中でも、まるでガラスのように透き通った体を持つイカがいるのをご存知でしょうか? その名はチヒロデンキイカ。彼らはなぜ透明な体を持っているのか、そして深海の厳しい環境でどのように命をつないでいるのか、その驚きの適応進化を探ってみましょう。
深海で見えなくなるための「透明」という工夫
太陽の光がほとんど届かない深海。特に、光がわずかに届くけれど、生きものの影がはっきり見えてしまうような「中深層」と呼ばれる深さでは、隠れることがとても大切になります。
チヒロデンキイカの体が透明であることは、この環境で身を隠すための見事な適応の一つです。もし彼らが色を持っていたら、わずかな光を受けたときに影ができたり、背景の色と違って見えたりして、敵に見つかりやすくなってしまいます。しかし、体が透明であれば、背景の色に溶け込むように見えなくなり、まるでそこにいないかのように敵の目から逃れることができるのです。
この透明な体は、色素がほとんどなく、体液の成分や体の組織が光をよく通すようにできているためと考えられています。光を通すことで、光が当たっても影ができにくく、深海のわずかな光の中でも姿が分かりにくくなるのです。
命がけの子育て!卵を抱えて守る驚きの行動
チヒロデンキイカのフシギな点は、透明な体だけではありません。彼らは、なんと産んだ卵を自分の体の一部を使って抱え込み、大切に守りながら深海を漂うことが知られています。
多くのイカの仲間は、卵を海藻などに産み付けて、そのまま親は去ってしまうことが多いです。しかし、深海は食べ物が少なく、敵から卵を守る場所もあまりありません。そんな過酷な環境で子孫を残すために、チヒロデンキイカの親(メス)は、たくさんの卵がゼラチン質でまとまった卵塊(らんかい)を、自分の腕と腕の間にある膜で包み込むようにして抱えるのです。
この「抱卵(ほうらん)」と呼ばれる行動は、親が卵を敵から守るだけでなく、卵に新鮮な海水を送ったり、ゴミがつかないようにきれいに保ったりする役割もあると考えられています。そして、この抱卵期間は非常に長いことがわかってきており、数年にわたる可能性も指摘されています。その間、親は餌を十分に取ることができないかもしれません。まさに、命がけの子育てと言えるでしょう。
透明な体と抱卵、すべては深海で生き抜くための適応
チヒロデンキイカの「透明な体」は、光が少ない環境で見つかりにくくするための適応。そして「卵を抱えて守る子育て」は、食べ物が少なく危険が多い環境で大切な子孫を確実に残すための適応。
どちらも、私たちが暮らす浅い海ではあまり見られない、深海ならではの生き残り戦略なのです。まるでガラスのように透き通りながら、長い時間をかけて大切に卵を守るチヒロデンキイカの姿は、深海生物たちがそれぞれの環境に合わせて進化させてきた、驚くべき工夫を私たちに教えてくれます。
身近な透明なもの(水やガラスなど)と、チヒロデンキイカの透明な体を比べてみたり、動物がどのように卵や子どもを守っているか(鳥の巣や犬の子育てなど)を調べてみたりすると、深海生物のフシギな適応が、意外と私たちの世界の工夫ともつながっていることに気づくかもしれませんね。深海生物の多様な生き方を知ることは、きっと新しい発見と学びにつながるはずです。