ふしぎな深海生きもの大ずかん

なぜ栄養が全くない場所で生きられるの?熱水噴出孔のチューブワームのフシギ

Tags: チューブワーム, 熱水噴出孔, 化学合成, 深海生物, 適応進化

燃えるような海の世界? 熱水噴出孔のフシギ

私たちの住む地球の海の底には、想像もできないような世界が広がっています。中でも特にフシギな場所の一つに、「熱水噴出孔」があります。これは、海底の割れ目から、地下深くで熱せられた海水が、硫化水素などの化学物質をたっぷり含んで吹き出している場所です。その温度は時に300度を超えることもあり、まるで海底から煙が出ているように見えます。

普通に考えれば、このような場所は生命がとても生きていけない、過酷な環境です。高温で、有害な化学物質がたくさん含まれていて、光も全く届きません。しかし、フシギなことに、この熱水噴出孔の周りには、たくさんの生きものたちが独自の生態系を作って暮らしているのです。

その中でも特に目を引くのが、「チューブワーム」という生きものです。真っ赤なエラのような部分と、それを覆う白い長いチューブ(管)を持っています。このチューブワーム、実は私たち人間や、地上のほとんどの生きものとは全く違う方法で栄養を得ているのです。

口も胃もない!どうやって栄養を摂るの?

チューブワームの体のつくりを見てみると、とても驚かされます。なんと、私たちにあるはずの「口」も「胃」も、「腸」もありません。消化器官が全くないのです。

「え? 口がないのに、どうやってごはんを食べるんだろう?」とフシギに思いますよね。地上の生きものは、みんな口から食べ物を取り入れて、胃や腸で消化して栄養を吸収しています。ところが、チューブワームにはそれがありません。

光に頼らない「化学合成」という生き方

チューブワームが、熱水噴出孔の過酷な環境で生きられる最大のヒミツは、その体の中に隠されています。チューブワームの体の中には、たくさんの共生細菌が住んでいるのです。

この共生細菌たちが、熱水噴出孔から吹き出してくる熱水に含まれる「硫化水素(りゅうかすいそ)」という化学物質を使って、栄養を作り出しているのです。この仕組みを「化学合成(かがくごうせい)」と呼びます。

まるで地上の植物が太陽の光を使って栄養(糖分など)を作る「光合成」をするように、チューブワームの中の細菌は、太陽の光の代わりに硫化水素などの化学エネルギーを使って、チューブワームが生きていくために必要な栄養を作り出しているのです。

チューブワームは、赤いエラのような部分から硫化水素や酸素を海水から取り込み、それを血管を通して体内の共生細菌に届けます。細菌たちは受け取った硫化水素などを使って栄養を作り、その栄養をチューブワームに提供します。チューブワームは、細菌が作ってくれた栄養で生きているというわけです。お互いに助け合って生きている「共生」の関係ですね。

なぜ熱い毒水にも耐えられるの?

チューブワームが熱水噴出孔の周りで生きられるのは、化学合成という栄養獲得法だけでなく、熱や毒にも耐える特別な体のつくりを持っているからです。例えば、体内の酵素(生体内の化学反応を進める物質)が、高い温度でも働くようにできていたり、有害な硫化水素を無害にするような仕組みを持っていたりすると考えられています。

このような特別な能力は、長い時間をかけて、熱水噴出孔のような特殊な環境に適応するために進化してきた結果なのです。

チューブワームから広がる探求心

光も届かず、高温で有毒な環境。そんな場所にも生命が力強く存在しているという事実は、私たちに多くの驚きを与えてくれます。チューブワームの「口がない」「体内の細菌と協力して生きる」「化学合成で栄養を作る」といったフシギな生態は、生命の多様性と、どんな過酷な環境にも適応しようとする進化のすごさを教えてくれます。

熱水噴出孔やチューブワームについて調べることは、地球の奥深くで起こる化学反応や、私たちとは全く違う方法で生きている生物たちの世界を知るきっかけになります。「極限環境に生きる生物」について調べてみたり、身近な場所にある化学反応(例えば、カイロが温かくなる仕組みなど)について考えてみたりするのも、面白いかもしれませんね。

深海には、まだまだ私たちの知らないフシギがたくさん眠っています。チューブワームのように、ユニークな体のつくりや能力で過酷な環境を生き抜く深海生物の世界を、ぜひ探求してみてください。