なぜ深海生物は匂いで仲間を探すの?暗闇でのフシギなコミュニケーション
深海の暗闇、どうやってお互いを見つける?
私たちの住む世界のほとんどは、太陽の光が届く明るい場所です。でも、海の深い底、深海は太陽の光が全く届かない、真っ暗な世界が広がっています。
そんな真っ暗な深海で生きる生きものたちは、どうやって仲間や繁殖相手を見つけるのでしょうか?私たち人間のように目で見て探すのは、とても難しいことです。深海生物の中には大きな目を持つ種類もいますが、それはわずかな光を感じるためのもので、遠くの相手をはっきり捉えるのには限界があります。
実は、深海生物は目だけではなく、さまざまな感覚を使って世界を感じ取っています。その中でも、真っ暗な環境で特に重要な役割を果たしている感覚の一つに「匂い(嗅覚)」があります。深海生物たちは、この見えない匂いを使って、お互いの存在を知り、コミュニケーションをとっているのです。
水の中の「匂い」ってどんなもの?
私たち人間は、空気中に漂う小さな粒を感じて「匂い」として認識します。では、水の中の「匂い」とは何でしょうか?
水中の匂いは、水に溶け出したさまざまな化学物質のことです。生きものの体から出される物質、食べ物の残りカス、あるいは求愛のサインとして特別に出される物質などが水に溶け出し、それが水の中を漂います。深海生物は、この水に溶けた化学物質を特別な器官でキャッチして、周りの情報を得ているのです。
暗闇で頼りになる「匂いセンサー」
深海生物には、この水中の化学物質をキャッチするための優れた「匂いセンサー」を持っています。
例えば、深海に住むエビの仲間を見てみましょう。彼らは長い触角を持っていますが、この触角にはたくさんの感覚毛が生えていて、水の中の匂いを敏感に感じ取ることができます。まるで、動く高性能なアンテナのようです。サメの仲間は、頭の下側にある鼻孔(びこう)という器官で匂いをかぎ分けます。深海ザメの中には、この鼻孔が特に発達している種類もいます。魚類も、種類によってさまざまな形の鼻孔を持ち、匂いの情報を集めています。
これらの匂いセンサーは、わずかな化学物質も見逃さないようにできています。真っ暗な深海では、たとえ相手が遠くにいても、そこから流れ出してくる匂いをたどることで、相手のいる場所を知ることができるのです。
「この匂いは仲間だ!」匂いが伝える大切なメッセージ
深海生物が匂いを使うのは、何も食べ物を探すときだけではありません。仲間を見つけたり、繁殖の相手を探したりする、「コミュニケーション」のためにも匂いは大活躍しています。
特に、繁殖相手を見つけることは、子孫を残すためにとても重要です。広い深海でたった一人の相手を見つけるのは至難の業ですが、成熟したオスやメスが出す特定の化学物質(フェロモンと呼ばれることが多いです)は、性別や種族を知るための大切なサインとなります。
例えば、ある種の深海エビは、繁殖の準備ができると特別なフェロモンを水中に放出します。すると、遠くにいる同じ種類のエビがその匂いをキャッチして、パートナーを探して集まってくるのです。深海ザメの中にも、フェロモンを使って異性を引き寄せると考えられている種類がいます。
匂いは、光のように物に遮られることがなく、水の流れに乗って遠くまで広がります。そのため、真っ暗で何もないように見える深海でも、匂いは確実に情報を伝えてくれる、とても効率的なコミュニケーションツールなのです。
匂いを使った適応進化
深海という過酷な環境で生き残るために、深海生物たちは匂いを使う能力を「適応」させてきました。
優れた嗅覚を持つことは、獲物を見つけたり、敵から身を守ったりするだけでなく、広い海のどこかにいるわずかな仲間のサインを見つけ出すためにも役立ちます。また、自分の存在やメッセージを伝えるために、特定の匂いの物質を作り出す能力も発達させました。
これらの「匂い」に関する能力は、長い時間をかけて、深海で生きるために最も都合の良い形に進化してきた結果なのです。
匂いのフシギを感じてみよう
深海生物が匂いで仲間とつながっているなんて、フシギですね。私たちの身近な生きものも、匂いを色々なことに使っています。犬が匂いをかぎながら散歩したり、アリが匂いの道しるべをたどったりするのも、匂いを使ったコミュニケーションや情報収集の一種です。また、植物が虫を誘う匂いを出したり、特定の化学物質がスイッチとなって生きものの体に変化を起こしたりすることもあります。
もし興味があったら、水の中にインクを一滴垂らして、どのように広がっていくか観察してみてください(ただし、生きものがいないきれいな水で実験しましょう)。匂いも水の中でこのように広がっていく様子を、少しだけ想像できるかもしれません。
まとめ
真っ暗な深海の世界では、目に見える光よりも、水に溶け出した「匂い」が大切な情報源となります。深海生物たちは、優れた匂いセンサーと、メッセージを伝える特別な匂いの物質を使って、広い海の中で仲間を見つけ、子孫を残し、たくましく生きています。
匂いという見えないツールを使った深海生物たちのコミュニケーションのフシギを知ると、深海の奥深さ、そしてそこに生きる生きものたちの多様な適応力に、改めて驚かされますね。