なぜフワフワ?深海生物のゼラチン質の体のヒミツ
まるでクラゲ?フワフワな深海生物たち
暗くて冷たい、そして高い水圧がかかる深海には、地球上の他の場所では見られないような、とてもユニークな姿をした生きものがたくさん暮らしています。その中でも特に目を引くのが、まるでクラゲのように体がフワフワ、プヨプヨとしていて、半透明や透明な姿をした生きものたちです。
彼らの体は、骨や硬い殻がほとんどなく、大部分が水分でできた「ゼラチン質」というプルプルした物質でできています。どうして、こんなフワフワな体をしているのでしょうか?実は、この変わった体のつくりには、深海という特別な環境で生き抜くための、素晴らしいヒミツが隠されているのです。
深海は「省エネ」がとても大事な世界
深海は、水面に比べて圧倒的に食べ物が少ない場所です。太陽の光が届かないため、植物プランクトンが育たず、海の表層で作られた栄養が沈んでくるのを待つしかありません。そのため、深海で暮らす生きものにとって、少ない食べ物で効率よくエネルギーを使うことが、生き残るために非常に重要になります。
私たちの体や、普通の海の魚の体は、筋肉や骨など、体を動かしたり支えたりするためのしっかりしたつくりになっています。これらを維持し、活動するためにはたくさんのエネルギーが必要です。しかし、深海ではそのエネルギーのもととなる「餌」がなかなか手に入りません。
ゼラチン質の体のヒミツ その1:エネルギーをとことん節約!
ここで、ゼラチン質の体の出番です。体がゼラチン質でできていると、筋肉や骨格を作る必要がありません。ゼラチン質はほとんどが水分なので、体を作るのに必要なエネルギーや栄養が少なくて済みます。
さらに、体を動かすための筋肉も少ないため、泳いだり活動したりするのに使うエネルギーも大幅に節約できます。まるで、燃費の良いエコカーのように、少しのエネルギーで効率よく生きていけるのです。これは、餌が少ない深海で生き残るための、究極の「省エネ」戦略と言えるでしょう。
例えば、大きな口を持つことで知られるフウセンウナギなども、見た目は大きいですが体はゼラチン質でフワフワ。これは、少ない餌で大きな体を維持し、待ち伏せ型の捕食をするための省エネに役立っていると考えられています。
ゼラチン質の体のヒミツ その2:深海をフワフワ漂う
ゼラチン質の体は、もう一つ大きなメリットがあります。それは、体が水に非常に近いため、比重が軽く、ほとんど浮き沈みなく水中を漂うことができる点です。
普通の魚は、浮き袋を使ったり、ヒレを動かしたりして泳ぎますが、これにはエネルギーが必要です。しかし、ゼラチン質の体を持つ生きものは、少ないエネルギーで同じ深さを維持したり、ゆっくりと移動したりすることができます。
深海を広い範囲泳ぎ回って餌を探すのは大変ですが、体を環境になじませてフワフワと漂いながら、近くにやってきた餌を待ち伏せしたり、効率よく見つけたりするのに、ゼラチン質の体はとても有利なのです。深海に暮らすクラゲやサルパの仲間も、このフワフワの体で深海を漂いながら暮らしています。
ゼラチン質の体のヒミツ その3:姿を隠す?
多くのゼラチン質の体を持つ深海生物は、体が透明に近い色をしています。深海は真っ暗闇ですが、わずかな光や、他の生きものの発光があります。透明な体は、こうした光の中でも自分の姿を隠しやすく、捕食者から見つかりにくくする効果もあると考えられています。
不思議な体から見えてくる深海の知恵
ゼラチン質のフワフワした体は、見た目には少し頼りなく見えるかもしれません。しかし、これは深海という過酷で特殊な環境において、餌が少ない、エネルギー効率が重要、といった課題を解決するための、素晴らしい「適応進化」の結果なのです。
体がゼラチン質であることによって、エネルギーを節約し、効率よく深海を漂い、場合によっては姿を隠すこともできる。深海生物のユニークな体のつくりは、彼らが長い時間をかけて獲得した、生き残るための素晴らしい知恵が詰まっていることを教えてくれます。
もし、身近なものでフワフワしたものやプルプルしたものを触ることがあれば、「この柔らかさは、もしこれが深海に住んでいたらどんな役に立つのかな?」なんて考えてみるのも面白いかもしれませんね。深海生物の体のヒミツを知ることで、彼らが暮らす世界の想像がどんどん膨らみます。